”あぁ、おいしい”
お猪口をコトッとテーブルに置けばでてくる言葉はとてもシンプルなもので
肩の力は抜け、幸福な『あぁ』が口から漏れ出します。
『常連さんばかりで入りにくいんじゃないか…?』
『食材やお酒の知識がないと恥かくんじゃないか…?』
『今の旬はなんだっけ…?』
すべてがとんだ的外れでした。
いろいろ難しく考えていた頭は
カウンターに1時間ほど座った頃にはスッキリしていました。
”小料理 藤緒”
30代でここを知れて良かった。
『藤緒はよかぞ』
いや、いろんな人から聞いてたんすよ。あまりにも絶賛されるもんだからわたしの中の敷居が逆にどんどん高くなっていました。
もはや若干緊張しながらかけたもん。予約の電話。
『はじめてでいらっしゃいますか?』
との言葉にハイと答えると
『どうぞよろしくお願いします』
電話の向こうの笑顔とおじきが伝わってくるかのような丁寧で柔らかい声が聞こえました。
少しホッとしたのを覚えています。
心配と楽しみとが入り乱れてるといいますか、
今までなかったワクワク感がありました。
これは日産車に乗っても体験できまい。
夜7時、鍛冶屋町。『小料理 藤緒』に行ってきました。
小料理 藤緒へのアクセスマップ
藤緒は街のどまん中!アクセスは非常に楽です。
路面電車でのアクセスなら思案橋電停で降りて鍛冶屋町のリンガーハットを目指してくだされ。
1Fにリンガーハットが入っているビル。
正式には『鍛冶屋町6番館ビル』ですね。こちらの4階にお店を構えます。
上の写真の矢印の先にエレベーターがあるんでこちらから入ります。
4Fにはテナントが3店舗はいってます。お間違いなく!
店内はカウンター7席とゆったり掘りごたつ席で構成!
今年で開店から24年、2018年から完全禁煙の店内。
カウンター7席に掘りごたつのテーブルが2台の構成です。マックスでお客さんが入っても少人数なんでゆっくりお酒を楽しめそうです。
でもね、その分席が早く埋まりやすいんです。いやこれは人気があるからしょうがないんですけどね
カウンターも20時には座れないことが多いんで早めの時間に予約したほうがいいです。
んでこの日、特徴的なのが客層が非常に大人だったこと。
わたしが入店した時は掘りごたつ席は埋まってた。見るからにお酒もいっぱい入ってるみたいでにぎやかだったんだけど、ありがちな煩さがなかったんす。
ここは本当にお酒を愉しみにきてる人が多いんだろうなって。
ドレスコートとして夏場は短パン・サンダルの来店は遠慮いただいているみたいですね。
小料理 藤緒はコース制!予約の時に決めておこう!
藤緒のメニューはおまかせのコース制!基本は予約時に決めます。
わたしが来店した3月は以下の3種類のコースでした。
- 5,000円
- 7,000円※
- 10,000円※
※3日前までに予約が確実です
コースの内容は季節で変わります。もしかしたら料金もかわってくるかもしれません。
金額の差ですけど品数は同じで内容がグレードアップするとのこと。7,000円以上だと少なくとも前日までの予約、できれば3日前までの予約が確実です。
あと予約した時にアレルギーや苦手な食材の有無も聞かれました。こういう配慮は嬉しいですね。
あらかじめアンサーを用意しとくと電話の際に慌てずに済みますよ。
今回は5,000円のコースをいただきました。
ナゴヤフグのめかぶ和え
お通しからほどなくしてあらわれた『ナゴヤフグのめかぶ和え』
めかぶの粘り中から顔を出すナゴヤフグは身がしまっていてうまかったすねー!
トラフグよりも固めでコリッとしている食感がありました。
ヨコワマグロの混ぜ飯
マグロの最高峰であるクロマグロの幼魚であるヨコワマグロを贅沢にあしらった一品。
もはや芸術の域に達してます。
味はもちろん盛り付け、器にいたるまで目でも楽しめる一品でした。
綺麗に写真が撮れないことを悔やみましたわ…
1口で食べるのがもったいないくらいです。いじでうまかよ…
合間に日本酒をキュッといれると本当に至高ですね。
正直もう1皿食べたかった。本当に正直いうと何皿でも食べたかったですこれは。
水イカのお刺身&若竹のお吸い物
水イカは山葵とお塩でいただきました。
一般的に醤油と山葵でいただくイメージが強いと思うんですけど甘味の強い水イカはお塩でそのアドバンテージをさらに強く感じれます。酒がうめぇ。
お吸い物ですけどなにげに今年の初たけのこだったんで嬉しかったっす。シャキッとした食感と旨味たっぷりの出汁がホッとさせます。
太刀魚のフライをからすみで
これから夏にかけて旬を迎える太刀魚をカラスミと一緒にいただく。
ほくほくと口の中でほぐれていく白身は絶品っす!
あっさりとした上品な身にカラスミの余韻が加わって気づくとお猪口のお酒が無いという罠よ。
たこの柔らか煮は度肝を抜かれた
あの茹で蛸の食感を想像してるとホントびっくりします。箸がスッと入るほどの柔らかさ。
『なぜわたしは1人で来たんだ?』って後悔。
その場で顔を見合わせてこの味の素晴らしさを共感できる人が欲しかった。
さすがに気になって『いや、これ…どんなやって作ってるんですか…?』
って聞いたらニコっと笑って『がんばってます!』っていわれて爆笑しました。
そのあとちょっと作り方を教えてもらったんですけど手間かかってますよこの料理
みなさんには単品ででも食べて欲しい1品です。
よもぎ入り蓮根まんじゅう
れんこんのすりあげたものを練り上げ、食感を残すために角切りとマッシュアップ
手間隙かけてれんこんの持つ食味と風味を活かしています。
そしてじんわり効いてくるお出汁に至っては
『この出汁で泳ぎたい』と比喩されたお客さんがいるほど。わかる。お風呂なら気絶するんじゃないかな。
このメニューに限らず藤緒の料理は出汁を大切にしてるんだろうなぁって容易に想像がつくんですよね。
あわせる調味料はほんのり。人間の都合で変わってしまう料理が溢れる昨今、素材の輪郭がよく際立ってます。
筍とアサリの炊き込みご飯
出汁がめいっぱい効いた炊き込みご飯。
いや、これめっちゃ美味かったっすね!!
味のベースは小長井産あさりの佃煮。
あとは極少量のお塩とお醤油でシンプルにまとめてある、それでこんなにうまくなる。
ふわっと鼻をかすめる香り、これですこれです…もうね、これがうまくないわけないじゃないですか!!
口の中いっぱいに広がる春の味はこの季節にしか味わえません。贅沢な気分にさせてくれました。
甘いだけじゃない!ほのかな苦味で技ありのシャーベット
ここで柚子シャーベットかと思いきや文旦(ぶんたん)できました。珍しい!
柑橘なんですが『ざぼん』のような味わいがある果実です。こちらは長崎産の紅まどかを使用されてました。
今日何回目の『(あっ、これは美味い)』でしょうか。
酸味は少なめでさわやかな甘味があるんですが
ほのかに舌をなめる苦味が上品な後味を演出してくれます。
最後まで丁寧な手仕事を感じることができるんすよ。こら人気になるわけです…
藤緒の魅力は『人』でもある
『日本酒は好きに飲んでいいと思うんです。楽じゃないですか。自分が気持ちいいのが一番ですよ。』
素直でストレート、あっけらかん、かたっくるしさもない。
そしてお二人ともお客さんに無理に迎合しないんですよ。そこがとにかくいいんです。
こちらとしても話して疲れないし盛り上がる話題はとにかく盛り上がる。楽しい会話ってのはそういうリアルな反応じゃないですか。
こちらの問いかけにはハキハキと答えてくれる。んで返答が濁らないんですよね。聞いてて清々しい。
”ミシュラン1つ星獲得店”
料理がとにかく美味しいのでその言葉が脳みそに先行しがちですが藤緒の魅力は『人』にもあると思うんです。
お二人はすごく『近い場所』にいらっしゃった。
自然体でゆるりと楽しめる。そんな空気感があったのです。
『旬のものも大事にしたいですけど自分がいいと思ったものを提供したいんですよね。「うまそうだな」で買うんですよわたし』
『いや、知識とか全然ですよ。ただ情熱や気持ちだけじゃ負けないとおもってます。だから(知識も)両方もってる人には絶対かなわないです。』
『私は知識やキャリアより ”今、何をもって料理しているか” を大事にしています』
最後の言葉の真剣さにはホント打たれました。
謙虚な姿勢で謙遜されていましたが、知識ないわけない。一番美味しく素材をいかせる方法を熟知されています。
ご主人は他の尊敬する料理人さんや蔵人さんを『ぶっ飛んでる』って表現されていましたが私からみたら十分ご主人も飛んでる。
滲み出てくる想いは料理や接客を通してお客さんにも伝わる。だからこのお店は評価され続けてるんだろうなって思いました。
『白の割烹着は着たくないんですよ。ネクタイつける仕事したくないって料理人はじめたんで、最初はほんと七五三でしたよ。』
トレードマークのビシッと決まった着物、そこにはこの店を象徴する気概を感じました。
出汁を味見する凛とした姿はめっちゃかっこよかったっすね…
ご主人自身も食べ歩くのが好きだそうで、気づけば
『あそこ良かった』『ここもいいですよ』って盛り上がりました。すごく楽しかったなぁ。
わたしたちの意見がバシーっと一致したのが飯盛の『かわしも』でした。二人でウンウンいってましたね。
ご主人はすごくお世話になってるそうで人間的にも大好きだとおっしゃってました。いや、あそこは私もおすすめっすわ。
気づいた時には非常に長居していたことに気づきました。めっちゃ迷惑やらかしてた…
長崎県平戸の日本酒がアツい!
いただいた日本酒で特筆するならこちらの『福田』
長崎県は平戸のお酒です。
ラベルもデザイン性が高く、お聞きするとここ7、8年のお酒だそう。
優しい甘さが美味しい料理をさらにブーストさせます。
クイッとひとくち飲んだだけで口角もクイッとあがります。料理の余韻に一口かませてやるともう最高ですね。肩の力は全部もってかれます。
冒頭の『あぁ、おいしい』はこのお酒から来ました。
ご主人も大好きなお酒だそうで、こちらの酒造の蔵人の方とは深い交友があるそうです。
そのお話がめっちゃおもろかったですね…
『たつやさんが凄すぎて逆にアホかと思う』
『とにかく酒にめちゃくちゃストイック。ほんと勉強してますよ』
『ほんとぶっ飛んでるんですよ』
『おれの比じゃないです。凄すぎる』
文字にすると一見disってるようにみえると思うんすけど聞いてて凄いリスペクトを感じるんすよね。
そんな蔵人のバックグラウンドを聞きながら飲むんだから余計にこのお酒が美味しく感じます。たつやさんに会いたい。
自分が好きな料理人や酒蔵の人の話をする時のご主人の熱量はおもわず引き込まれるものがあります。
女将さんも加わってたつやさんの話に花が咲きます。満開。
たつやさんに会いたい。
そしてこちらも平戸のお酒・森酒造の『飛鸞 しぼりたて純米原酒』
これがマジで本当にとんでもなかった。
飲みながら『これはいかんですなぁ…』って何回も呟いたもん。
甘ったるくなくてびっくりするほどスッとはいる。
この飲みやすさと切り口の良さは
今日が平日だって忘れるレベルです。危ない。
調べたんですけどこのお酒もう手に入らないんすよね(もちろん完売)
もうね、わたしは今年平戸に行こうと誓ったよ。
長崎にはまだまだ美味しいお酒がある。
六十餘洲や杵の川以外で長崎の美味しい日本酒探しているんなら上記の福田酒造・森酒造のお酒はほんとおすすめですよ!
大切な席に。30代でここを知れたことがとても嬉しい
藤緒はよかぞ。
20代でもいろんなお店にいきましたが歳を重ねるにつれてもてなしの席選びに頭を悩ませることも多くなりました。
そんな中の今回です。もう少し早くお伺いできていれば今まで悩まずに済んだのになと少し笑いました。
絶対はずしませんよここなら…30代で藤緒を知れて良かった。
顔を見合わせて『あぁ、おいしいね』ってこの味を共有したい。
そこにはきっと笑顔がついてくる。
お猪口を傾ければ日頃の感謝の言葉もスッと出る気がするんです。
温かなカウンター、ここでそんな時間を過ごしたいって思ったのです。
『よか店のあっとさね』
久しぶりの電話を切って『さぁ、どうもてなそうか』と呟いて少し笑った。
寒さもだいぶ和らいだ春の夜、親孝行のお膳立ては整った。
足取り軽やかに電停に向かうのでした。
素敵な時間をありがとうございます!また来ます!!
ごちそうさまでした!!!!
小料理 藤緒
住所:長崎市鍛冶屋町6-1 鍛冶屋町6番館ビル
電話:095-825-3676
営業時間:18:00-22:30(早めの時間推奨です)
定休日:日・祝日・第1・3月曜日
※2020年3月取材時の内容です。