二十一時、博多駅、かしわうどん。 お前が「うまい」って思ったらそれはもう「うまい」でいいんだよ




猫町
こんちゃっす!猫町です!

出張で長崎から福岡に行っておりました。

いやぁ福岡も美味いもんがいっぱいっすね!大好きな街です。

また寒くなってきたんで福岡名物の水炊きキメてきましたよ!よ!

雑炊がとってもおいしかったんで食べたことない人は福岡いったら食べてみてくだされ。

 

普段は自家用車で福岡行くんすけど今回は電車で行っておりましてね。

出張のお仕事はトラブル続きで忙しく電車に乗って帰る頃には夜も9時をまわっておりました。

あとはもう長崎行きのかもめに乗るだけだったんですけど、この時間に3番4番乗り場に立つと少し思い出すことがあって。

一本遅らせてホームのかしわうどんを食べ、

最終電車までキーボード叩いてみようと思ったのです。

 

はじめて入社した会社の話です。

総合職とは名ばかりの営業ソルジャーとなった新卒のわたしには

35歳男の先輩社員が教育係としてついたんですよ。

この人がもうめちゃくちゃにグルメで、九州中の美味い店を知り尽くしていました。

 

『うまかとば食いにいこで』

 

が口癖でした。

 

同じ長崎出身ってことでそれはそれは可愛がってもらったんですよ。

福岡・北九州エリアを半年くらい2人で仕事したんですけど公私ともども色んなお店に連れていってくれました。

それがもうすんげぇ美味いとこばっかやしで感動しましてね。

自分で店探すより先輩に聞いたほうが早いから当時は一切ググらなかったっすね。

しかしやっぱ単価が高い店、敷居が高い店が多くて申し訳なかったんですけどずっと奢ってもらってましたね…

それでも

 

『よかて。かっこつけさせろさ。』

 

しか言わないクソイケメン野郎でした。

 

先輩は仕事もアホほどできる人で既存客へのアプローチも新規のお客さんもなんでもこいで営業成績は常時トップ集団。

そしてアホほどモテた。

休みの日には女ん子連れてデートしとる姿をよく見かけたし、

35歳なんに20歳くらいの女の子を『彼女さね』つって紹介した時は本当におったまげた。

わたしはというと先輩の逆をいくような生活で、仕事は全然ダメだし女性なんて学生の頃以来喋ることすらなくなっていた。

とくに仕事はほんとにダメだった。わたしは喋るのが苦手だ。一番の要因はそれだった。すごい人見知りだし。

聞き上手って言われるけど本当は自分から話したいのにうまく話せずスベリ、それが怖くて空気になる。辛いことばかりだった。

 

そんな私にとって先輩から聞く美味しい店の話は憧れしかなかった。

 

『うわぁ…マジすかぁ…そがん言われたらいきたかですけんねぇ!』

 

っていつも言ってた気がする。

 

先輩は本当に口が立つ。

 

いい店でたくさん食べてるのもあるんだろうけど知識もあって表現もうまくて、その店に行きたい!と強く思わせる語彙力があった。

そして内容に自慢やひけらかす感じがないからずっと聞いてられる。きっとこういう話ができるからモテるし仕事もうまいんだろうなぁって。

そんな先輩としばらく一緒に過ごし迎えた冬のある日

 

『うまかうどんば食いにいこうで!』

 

ってお誘いにウキウキしながら着いて行ったら

博多駅について改札通りだすやないすか。

入場券を渡され戸惑うわたしに

 

『はよ』

『よかけんはよ来いちゃ』

 

しか言わん先輩。たまに北九弁にならんで怖いけん。

なにごとかと頭が『?』状態で連れて行かれた先が博多駅3番4番ホームにあるうどん屋さんでした。

 

『駅のホームのうどん屋さんじゃないすか!?』

『知らんとや?うまかとぞ。』

『いつでも食えるくないすか?』

『今食うけんうまかとぞ。』

 

さすがに全く理解できんやった。入場券分割高じゃんすか。130円くらいしたんじゃないかな…

ここまでして食う意味がわからんかった。

そんなわたしをよそに先輩は

 

『ラッキー… いなりのあるたい…』

 

と呟くように喜びながら小銭をチャリチャリ券売機にいれてた。

 

かしわうどんは福岡の名物うどんでその名の通りうどんの上に鶏肉の『かしわ』が甘辛い味付けでのっかっている。

福岡や北九州にいればたぶん見かけることは何回もあると思う。

でもなんとなく味が想像できる気がして食べたことすらなかった。

ただこの日、このうどんは本当に美味しかった。

寒いのもあったんだけど、かしわの脂や味付けもあってかスープはほのかに甘く冷えた体にぞんぶんに染み渡った。

目の前に広がる湯気が美味しさを掻き立ててる気がした。

麺なんてスーパーにあるような袋麺なのに何倍もうまく感じたんだ。

 

『底にかしわの溜まっとろうが?こいば一気に飲むとがよかとたいな』

 

わたしの丼をみながら『これが真骨頂!』みたいなテンションで先輩はいった。

うどん食べてる間に沈んでいったかしわをドンブリ両手に持って一気に流し込む。口の中は甘辛いかしわと熱いスープで充満され鶏肉の『ジャクジャク』と幸せな食感が続いた。

牛の肉うどんにはない食感だった。細かく肉がほぐれてるからこうなるんだろうな。

 

『うまいっす!贅沢っすねこれ』

 

『やろが?』

 

いなりを頬張りながら先輩がにんまり笑った。

 

『お前が「うまい」って思ったらそれはもう「うまい」でいいんだよ』

 

急に言われたこの一言には本当にハッとして、今でもずっとブレずにわたしの中にあります。

 

先輩はそれからいつもとは違う穏やかな口調で

 

『別によかっちゃなかとや?』

 

って最後のいなりを口にいれながら言った。

 

先輩がなにを言いたいかすぐにわかった。

そしてなんでこの博多駅ホームのうどん屋さんに連れてきたのかも合点がついた。

 

わたしは仕事でもプライベートでもなんでも気にしすぎる癖があった。

仕事にも人間にも気を使いすぎるし、いい仕事をしなくちゃいけない。意見はせず我慢しなきゃいけない。こんな提案じゃだめ。てずっと思っていた。

すべてにおいて『自信』がなかった。

 

そんなわたしに『あれがこれが』というわけじゃなくただ一言くれた。

 

十分でした。

 

それから私は仕事をした。

営業した。

新規・既存おかまいなしに。

夢中になって仕事をしていた。

わたしは何を気にしてた?誰の目を気にしてた?自信がなければ作ればいい。

楽しい。仕事ってこんなに楽しいんだ。

 

結果成約は0件だった。

 

先輩は『たぶんむいてねぇわ』って笑った。

わたしは『そっすね』って笑った。

 

ただあの日に変わったなにかがあった。

少なくとも今人見知りしなくなったのはこの出来事のおかげだと思う。

 

それからも先輩とご飯に行き続けた。

王将で瓶ビールと餃子しばりで2時間ぐらいぐだぐだしたりもした。

『王将は店によってメニューのちがうとぞ』

『そうなんすか』

みたいなん言ってたのを覚えてる。

 

それが最後でした

 

『おてんと様と飲みたかもんやねぇ!』

つって機嫌がいい時先輩は江戸っ子みたいにずっと言ってたっすね。37歳で実現させるんだからたいしたもんす。でもちょっと早かったっすわ。

あれから何年経ったんすかね。覚えてます?もう仏さんとサシで飲みました?どうなんすか?あっちで店開拓しましたか?聞きたいことが山んごとありますよ。

先輩が『あそこはよかぞ』って言った店は1人で全部いきました。

先輩が美味しそうにお店紹介するから行こうって思うんですよ。んで行ったら案の定うまいんすわ。

 

ブログって知ってます?あれですわ mixi ってあったやないすか?あれの日記みたいなやつっす。やりだしたんすよ。

わたしも文章で先輩みたいに色んな人にお店を紹介してるんすよ。やっぱ喋るとは苦手ですけんねぇ。

『わいがや?』って言います?やけん伝わるように文法とか文章の読みやすさとかだいぶ勉強したんすよ?

でもダメやったんすよ。難しすぎて。わたし日本語向いてなかったっすわ。

 

やけんもう先輩に話すように書いてみたんすよ。

 

そしたら喜んでくれる人ができたんですよ。

どうですかね?何記事か見てくれんですか?

 

先輩は『喋り』でわたしを楽しませてくれました。そして救ってくれた。

わたしは『文章』で楽しませたい人がいっぱいできましたよ。

やけんもうちょっと待っててください。また飲みましょうで。

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